﻿1
00:01:06,335 --> 00:01:21,784
♬～

2
00:01:21,784 --> 00:01:25,688
(北斎)
この世は 円と線で出来ている｡

3
00:01:25,688 --> 00:01:32,428
ほれ
こうして 円が重なってるだろう｡

4
00:01:32,428 --> 00:01:38,768
尾っぽも丸～く
尻に巻きついている｡

5
00:01:38,768 --> 00:01:42,104
これも 円だ｡

6
00:01:42,104 --> 00:01:52,748
でもって
頭に三角を２つ載っけると…｡

7
00:01:52,748 --> 00:02:05,127
♬～

8
00:02:05,127 --> 00:02:11,000
おっ？ おお？ お前 まさか…｡

9
00:02:11,000 --> 00:02:14,000
ええ？

10
00:02:17,707 --> 00:02:20,142
(お栄)<私は ただ➡

11
00:02:20,142 --> 00:02:23,479
己の手のひらの中に
初めて置かれた筆が➡

12
00:02:23,479 --> 00:02:26,179
うれしくて たまらなかった>

13
00:02:28,818 --> 00:02:31,518
<くらくらした>

14
00:02:44,767 --> 00:02:46,702
(小兎)そ～れ 見た事か｡

15
00:02:46,702 --> 00:02:50,640
３年もたたずに夫婦別れなんて｡
ええ？

16
00:02:50,640 --> 00:02:54,110
私はね ず～っと思ってたんだよ｡
いつか 亭主に➡

17
00:02:54,110 --> 00:02:57,410
愛想尽かされるんじゃ
ないかってねえ…｡

18
00:02:58,981 --> 00:03:03,281
勝手気ままをするからだよ｡

19
00:03:05,121 --> 00:03:09,458
不器量なくせに
化粧もしない 髪はﾎﾞｳﾎﾞｳ➡

20
00:03:09,458 --> 00:03:12,361
もう 身を構いもしないでさあ｡

21
00:03:12,361 --> 00:03:14,797
大体 世間にゃ➡

22
00:03:14,797 --> 00:03:17,700
そりの合わない組み合わせなんか
ごまんとあるんだよ｡

23
00:03:17,700 --> 00:03:22,672
不仲じゃない｡ 不熟なんだよ
近頃の夫婦は｡ ええ？

24
00:03:22,672 --> 00:03:25,441
(弥助)また始やりやしたね｡

25
00:03:25,441 --> 00:03:29,345
おい｡
へえ｡
こんな足首で歩けるかい？

26
00:03:29,345 --> 00:03:34,083
あっ… へえ 確かに｡

27
00:03:34,083 --> 00:03:36,752
ま～た ざる耳だよ｡

28
00:03:36,752 --> 00:03:39,655
そんなとこだきゃ
お父っつぁんに似ちまって｡➡

29
00:03:39,655 --> 00:03:43,092
それじゃなくても
女だてらに絵筆しか持たない➡

30
00:03:43,092 --> 00:03:46,429
変わり者だとか
平気で枕絵を描いてるだとか➡

31
00:03:46,429 --> 00:03:51,100
知れ渡っちまったもんだから
いずれ様もが尻込みしちまってさ｡

32
00:03:51,100 --> 00:03:54,437
ようやく決まった縁だってえのに｡

33
00:03:54,437 --> 00:03:58,774
言い返さなくていいんですかい？
言い返して どうする？

34
00:03:58,774 --> 00:04:02,111
口答えなんかしようもんなら
かえって 長引かあ｡

35
00:04:02,111 --> 00:04:09,111
大体 絵なんか描いて
何になろうってんだい？ ええ？

36
00:04:12,121 --> 00:04:15,992
(ため息)
なあ！ お前さんも悪いんだよ！

37
00:04:15,992 --> 00:04:18,461
小さい頃から 甘い顔して｡

38
00:04:18,461 --> 00:04:21,364
｢お栄は
自分から絵筆を持ちやがった｡➡

39
00:04:21,364 --> 00:04:26,802
こいつは 見どころがある｣なんて
目尻下げるもんだからさあ もう｡

40
00:04:26,802 --> 00:04:29,138
おっ 何しやがんでい いきなり｡

41
00:04:29,138 --> 00:04:33,409
見てごらんよ｡
すっかり本意気になっちまって｡

42
00:04:33,409 --> 00:04:38,280
この子はね 弟子じゃないんだよ｡
娘なんだよ｡

43
00:04:38,280 --> 00:04:40,282
こと 絵についちゃ➡

44
00:04:40,282 --> 00:04:43,753
どんなに偉いお殿様の言う事も
聞かねえ北斎先生でも➡

45
00:04:43,753 --> 00:04:45,688
女房には
何にも言えねえってんですから｡

46
00:04:45,688 --> 00:04:48,424
(笑い声)

47
00:04:48,424 --> 00:04:52,762
男は所詮 女の出がらしだぁな｡
逆らうまいってね｡

48
00:04:52,762 --> 00:04:54,697
お～い お栄！

49
00:04:54,697 --> 00:04:57,099
口を動かしてる暇あったら
とっとと手ぇ動かせ｡

50
00:04:57,099 --> 00:05:00,770
はい｡
弟子じゃないって
言ってる先から…｡

51
00:05:00,770 --> 00:05:04,440
…ったく 子が子なら 親も親だよ｡
ええ？

52
00:05:04,440 --> 00:05:07,343
何だい こりゃ｡
よせよ｡

53
00:05:07,343 --> 00:05:10,312
何でもかんでも
勝手に触るんじゃねえ！

54
00:05:10,312 --> 00:05:14,784
何だよ｡ 何だい…｡

55
00:05:14,784 --> 00:05:20,656
<さて ここは 江戸の浮世絵師
葛飾北斎の仕事場だ｡➡

56
00:05:20,656 --> 00:05:23,793
なかなかの散らかりようだろう？
しかたぁねえ｡➡

57
00:05:23,793 --> 00:05:28,464
おやじ殿 つまり ここの主が
掃除するのを嫌がるんだ｡➡

58
00:05:28,464 --> 00:05:33,069
ちなみに そこのクモの巣も
おやじ殿のお気に入りだ｡➡

59
00:05:33,069 --> 00:05:36,739
役者絵 枕絵 読み本の挿絵…｡➡

60
00:05:36,739 --> 00:05:39,408
何でもやるのが
おやじ殿の流儀だ｡➡

61
00:05:39,408 --> 00:05:44,747
おやじ殿が顔姿を描き
細かいところは 弟子の仕事｡➡

62
00:05:44,747 --> 00:05:50,086
そうやって 師匠の画風や筆遣いを
目に刻み込む｡➡

63
00:05:50,086 --> 00:05:52,755
おやじ殿が
どんなに名が売れようと➡

64
00:05:52,755 --> 00:05:54,690
決して
鍛錬を怠らないもんだから➡

65
00:05:54,690 --> 00:05:57,626
私らは 足を引っ張らないよう
ついていくだけで➡

66
00:05:57,626 --> 00:05:59,926
てんてこまいだ>

67
00:06:04,366 --> 00:06:08,771
(鐘の音)

68
00:06:08,771 --> 00:06:12,441
半鐘だ｡

69
00:06:12,441 --> 00:06:14,741
ああ 火事ですね！

70
00:06:17,113 --> 00:06:20,113
私が いっち速えよ！

71
00:06:27,757 --> 00:06:30,126
瀬戸物町じゃねえか？

72
00:06:30,126 --> 00:06:34,126
いや そこまで南じゃあないね｡

73
00:06:38,934 --> 00:06:42,705
代わっとくれ｡
ああ？ 何だ｡

74
00:06:42,705 --> 00:06:53,349
♬～

75
00:06:53,349 --> 00:06:59,349
いや～… なんてえ色だ｡

76
00:07:02,424 --> 00:07:06,295
(善次郎)ﾊﾊﾊ 世話ねえな｡

77
00:07:06,295 --> 00:07:08,764
善さん｡

78
00:07:08,764 --> 00:07:11,667
どうせ どうやったら あんな色
出せんのか 考えてたんだろう｡

79
00:07:11,667 --> 00:07:14,103
何してんだい こんなとこで｡

80
00:07:14,103 --> 00:07:19,975
そりゃ お前と同じ 酔狂さ｡
酔狂？ バカ言え｡

81
00:07:19,975 --> 00:07:22,444
みんな
大変な思いしてるってのに｡

82
00:07:22,444 --> 00:07:25,444
ああ｡ こりゃひでえ｡

83
00:07:28,784 --> 00:07:32,388
風の噂で聞いたぜ｡
誰かさんが➡

84
00:07:32,388 --> 00:07:35,724
旦那が描いた絵を 鼻で笑って
出戻ったって｡

85
00:07:35,724 --> 00:07:42,398
はあ～
そんな噂が出回ってんのか｡

86
00:07:42,398 --> 00:07:47,269
まあ 違えねえけど｡
ﾊﾊﾊ！ 違えねえのかい！

87
00:07:47,269 --> 00:07:50,739
ﾊﾊﾊ お栄らしいや｡

88
00:07:50,739 --> 00:07:52,675
(笑い声)

89
00:07:52,675 --> 00:07:54,610
<この善次郎も➡

90
00:07:54,610 --> 00:07:57,613
前に うちに出入りしていた
浮世絵師の一人だ｡➡

91
00:07:57,613 --> 00:08:01,383
画号は 溪斎英泉>

92
00:08:01,383 --> 00:08:04,286
そっちは近頃 景気いいらしいね｡

93
00:08:04,286 --> 00:08:07,756
あの馬琴先生に気に入られたって｡

94
00:08:07,756 --> 00:08:11,627
昔は 私とおんなじ
からっ下手だったくせに｡

95
00:08:11,627 --> 00:08:14,630
ああ？ からっ下手？

96
00:08:14,630 --> 00:08:17,930
お前の色気のねえ枕絵と
一緒にするなよ｡

97
00:08:22,771 --> 00:08:25,441
なあ 善さん｡

98
00:08:25,441 --> 00:08:28,777
お前は 何で絵なんか描いてる？

99
00:08:28,777 --> 00:08:31,113
何でえ？ いきなり｡

100
00:08:31,113 --> 00:08:34,413
名か？ それとも 銭か？

101
00:08:39,922 --> 00:08:42,391
いい女 抱くためだ｡

102
00:08:42,391 --> 00:08:46,061
ﾊﾊﾊ ほかに何がある？

103
00:08:46,061 --> 00:08:49,398
何だい
人が真面目に話してんのに｡

104
00:08:49,398 --> 00:08:53,698
ﾊﾊﾊﾊ！ ﾊﾊﾊﾊﾊ｡

105
00:09:01,744 --> 00:09:05,414
ｵﾗﾝﾀﾞ国から 絵の注文？
(弥助)へえ｡

106
00:09:05,414 --> 00:09:10,085
それが そのｼｰﾎﾞﾙﾄって先生は
北斎先生の絵が好きで➡

107
00:09:10,085 --> 00:09:13,756
世界一の絵師だって
言ってるってんで｡
ふ～ん｡

108
00:09:13,756 --> 00:09:17,426
…で 江戸の絵なら
何でもいいってか？

109
00:09:17,426 --> 00:09:22,298
それが 一つ お望みがあるそうで｡

110
00:09:22,298 --> 00:09:26,101
蘭画です｡
蘭画｡
へえ｡

111
00:09:26,101 --> 00:09:29,972
蘭画ってえと？
西洋の絵だよ｡
えっ？

112
00:09:29,972 --> 00:09:33,375
北斎に 西洋の画法に
挑んでほしいんだとよ｡

113
00:09:33,375 --> 00:09:36,045
何でえ｡

114
00:09:36,045 --> 00:09:39,715
俺の腕を試そうって寸法か｡

115
00:09:39,715 --> 00:09:42,618
面白えじゃねえか｡

116
00:09:42,618 --> 00:09:44,586
<おやじ殿は➡

117
00:09:44,586 --> 00:09:48,057
そのｵﾗﾝﾀﾞからの注文を
15枚の絵とし➡

118
00:09:48,057 --> 00:09:50,960
そのうち 12枚の下絵を
あっという間に仕上げ➡

119
00:09:50,960 --> 00:09:55,731
残りは 一番弟子の弥助さんと私が
描く事になった｡➡

120
00:09:55,731 --> 00:09:58,634
私の画題は ｢遊女｣だ>

121
00:09:58,634 --> 00:10:04,073
蘭画ってえのは 見えたものを
そのまま描き写してやがる｡

122
00:10:04,073 --> 00:10:11,373
あと この色｡
ひとところでも 色が濃く薄く…｡

123
00:10:15,417 --> 00:10:21,290
(ｶﾅﾘｱの鳴き声)

124
00:10:21,290 --> 00:10:25,427
いいねえ あんたは｡

125
00:10:25,427 --> 00:10:29,098
いつ見ても いい色だ｡

126
00:10:29,098 --> 00:10:34,770
へえ～
こいつが 噂のｶﾅﾘｱ鳥か｡

127
00:10:34,770 --> 00:10:38,640
おお～ 善さん！
久しぶりじゃねえか！

128
00:10:38,640 --> 00:10:43,112
おうよ｡ みんな
壁がﾊﾟﾝﾊﾟﾝ膨れ上がりそうなほど➡

129
00:10:43,112 --> 00:10:45,781
熱入れて取っ組んでるんで
入っていいか迷ったぜ｡

130
00:10:45,781 --> 00:10:49,451
ﾍﾍﾍﾍﾍ｡ 驚いたろう それ｡

131
00:10:49,451 --> 00:10:52,354
馬琴先生が おやじ殿にってな｡

132
00:10:52,354 --> 00:10:57,126
ああ｡ 何せ
馬琴先生と北斎おやじといやあ…｡

133
00:10:57,126 --> 00:11:00,796
[ 回想 ]
こいつに
草履をくわえさせろだと？

134
00:11:00,796 --> 00:11:06,496
(馬琴)そうだ！
絵師は 黙って言う事を聞け！

135
00:11:08,137 --> 00:11:11,837
誰が そんな汚え図 見て
喜ぶってんだい！

136
00:11:15,811 --> 00:11:21,483
そうも言うんなら
てめえが 口にくわえてみやがれ！

137
00:11:21,483 --> 00:11:25,821
それ以来 けんか別れで
20年 一度も組んでねえ｡

138
00:11:25,821 --> 00:11:28,724
今でも 顔合わす度に
ほえ合う仲だって聞いたのによ｡

139
00:11:28,724 --> 00:11:40,335
♬～

140
00:11:40,335 --> 00:11:45,774
おやじ殿の絵を見りゃ
なるほどと思わぁ｡

141
00:11:45,774 --> 00:11:50,446
けど いざ 蘭画と考えた途端に
手出しができなくなるんだ｡

142
00:11:50,446 --> 00:11:55,117
ざまあねえよ｡ 遊女なんぞ
描き慣れてるはずなのに｡

143
00:11:55,117 --> 00:11:58,020
そうか？

144
00:11:58,020 --> 00:12:01,990
俺には お前も
ﾊﾟﾝﾊﾟﾝ膨れて見えるぜ｡

145
00:12:01,990 --> 00:12:06,728
それ また
自分で色作ってんだろ｡

146
00:12:06,728 --> 00:12:11,667
ああ｡ 私の作る色は
おやじ殿のお気に入りなのさ｡

147
00:12:11,667 --> 00:12:14,136
料理は とんと できなくても➡

148
00:12:14,136 --> 00:12:16,071
石や根っこを
干したり煮たりするのは➡

149
00:12:16,071 --> 00:12:18,474
苦にならないからね｡

150
00:12:18,474 --> 00:12:21,810
本当か？

151
00:12:21,810 --> 00:12:24,713
本当は 己で思うがまま
色を差配してみたいって➡

152
00:12:24,713 --> 00:12:27,413
思ってんじゃねえのか？

153
00:12:29,151 --> 00:12:32,421
お前は 昔っから色に目がねえ｡

154
00:12:32,421 --> 00:12:34,356
どうやったら 蘭画みてえな
見た事もねえ色みが➡

155
00:12:34,356 --> 00:12:39,356
自分に出せんのか 試したくて
描きたくて しかたがねえんだ｡

156
00:12:41,763 --> 00:12:47,763
違うよ｡ 私は ただ
おやじ殿の役に立とうと…｡

157
00:12:49,638 --> 00:12:54,343
俺相手に しらは切れねえぜ｡

158
00:12:54,343 --> 00:12:57,779
お前は 前から 描きたい絵を
ず～っと胸の中で温めてる｡

159
00:12:57,779 --> 00:13:02,117
その ちっこい胸によ｡
｢ちっこい｣は余計だ｡

160
00:13:02,117 --> 00:13:06,989
ﾌﾌｯ やけるねえ…｡

161
00:13:06,989 --> 00:13:10,289
お前は
目指すべきものを持ってる｡

162
00:13:13,462 --> 00:13:16,365
何 訳の分かんねえ事
言ってんだい｡

163
00:13:16,365 --> 00:13:19,134
ちょっと売れたからって
上から もの言いやがって｡

164
00:13:19,134 --> 00:13:23,805
ﾊﾊﾊﾊ｡ 俺が 今 何て いわれてるか
知ってるか？

165
00:13:23,805 --> 00:13:27,676
｢溪斎英泉は 北斎の再来か｣だぜ｡

166
00:13:27,676 --> 00:13:30,145
豪儀じゃねえか｡

167
00:13:30,145 --> 00:13:34,750
ああ おやじ殿も
よく言い暮らしてたな｡

168
00:13:34,750 --> 00:13:38,620
｢技を磨きてえなら まねて まねて
体の中にたたき込め｡➡

169
00:13:38,620 --> 00:13:41,623
技もねえのに 画風がどうのと
よそ見をすりゃあ➡

170
00:13:41,623 --> 00:13:44,760
先は行き止まりだ｣ってね｡

171
00:13:44,760 --> 00:13:52,634
けどよ… ﾌﾌﾌ 再来じゃあな｡

172
00:13:52,634 --> 00:13:56,104
私は まだ そんなとこ
行き着いてもいない｡

173
00:13:56,104 --> 00:13:59,975
どうしたら もっと おやじ殿が
思うように描けるのか➡

174
00:13:59,975 --> 00:14:03,675
おやじ殿の絵の役に立てんのか…｡

175
00:14:06,448 --> 00:14:10,118
よし｡

176
00:14:10,118 --> 00:14:12,454
いいとこ 連れてってやる｡

177
00:14:12,454 --> 00:14:15,123
まだ 仕事だ｡
ああ？

178
00:14:15,123 --> 00:14:18,026
たまには 仕事なんか
うっちゃるもんだ｡

179
00:14:18,026 --> 00:14:20,326
ほら｡
えっ ちょ…｡

180
00:14:24,800 --> 00:14:28,500
(弥助)どうした？
ちょっと そこまで｡

181
00:14:30,138 --> 00:14:40,415
♬｢とんび からすに
ならるるならば｣

182
00:14:40,415 --> 00:14:51,059
♬｢はあ 飛んで行きたや 主の側｣

183
00:14:51,059 --> 00:14:57,966
ﾊﾊﾊ｡ ♬｢つるつるつん｣
♬｢はあ つるつるつん｣

184
00:14:57,966 --> 00:15:01,703
♬｢はあ｣
♬｢ちりちりちん｣

185
00:15:01,703 --> 00:15:11,780
♬～

186
00:15:11,780 --> 00:15:13,715
♬｢ちりちりちん｣
♬｢はっ｣

187
00:15:13,715 --> 00:15:16,118
♬｢つるつるつん｣
♬｢よっ｣

188
00:15:16,118 --> 00:15:23,458
♬｢とんび からすに
ならるるならば｣

189
00:15:23,458 --> 00:15:27,129
♬｢飛んで行きたや｣

190
00:15:27,129 --> 00:15:30,032
よっ 善さん｡
よう｡ 調子は どうでえ？

191
00:15:30,032 --> 00:15:32,732
見てのとおりですよ｡

192
00:15:42,611 --> 00:15:46,615
<善さんは かつては
二本差しのお侍だったと➡

193
00:15:46,615 --> 00:15:48,750
誰かに聞いた事がある｡➡

194
00:15:48,750 --> 00:15:52,087
それ以上は 何も知らない>

195
00:15:52,087 --> 00:16:03,098
♬～

196
00:16:03,098 --> 00:16:06,768
(お滝)吉原一の合奏です｡

197
00:16:06,768 --> 00:16:10,439
すげえ…｡

198
00:16:10,439 --> 00:16:17,112
♬～

199
00:16:17,112 --> 00:16:23,985
俺の妹だよ｡ ３人とも｡

200
00:16:23,985 --> 00:16:28,123
俺が養いきれずに
芸者の置き屋に預けた｡

201
00:16:28,123 --> 00:16:33,395
それを恨みもせず
こうして 芸を身につけてくれた｡

202
00:16:33,395 --> 00:16:47,409
♬～

203
00:16:47,409 --> 00:16:49,745
はっ｡

204
00:16:49,745 --> 00:17:13,769
♬～

205
00:17:13,769 --> 00:17:15,704
はっ｡

206
00:17:15,704 --> 00:17:19,641
♬～

207
00:17:19,641 --> 00:17:24,413
おい お栄も来い｡
どうぞ どうぞ｡

208
00:17:24,413 --> 00:17:26,348
ああ… いいよ 私は｡

209
00:17:26,348 --> 00:17:28,784
ほらほらほら！

210
00:17:28,784 --> 00:17:43,298
♬～

211
00:17:43,298 --> 00:17:45,734
<目を凝らせば➡

212
00:17:45,734 --> 00:17:51,406
この世の どこもかしこもが
色の濃い淡いで出来ている>

213
00:17:51,406 --> 00:18:17,098
♬～

214
00:18:17,098 --> 00:18:21,436
<人の顔も体も
光の当たり方で色が違う｡➡

215
00:18:21,436 --> 00:18:23,772
一色じゃない｡➡

216
00:18:23,772 --> 00:18:27,108
光が強く当たっているところは
色が薄く➡

217
00:18:27,108 --> 00:18:31,780
暗い場では 色は沈む>

218
00:18:31,780 --> 00:18:37,780
そうか｡ 光だ…｡

219
00:18:39,588 --> 00:18:42,390
光が…➡

220
00:18:42,390 --> 00:18:48,263
光と影が 色や形を作ってるんだ｡

221
00:18:48,263 --> 00:19:06,963
♬～

222
00:19:17,292 --> 00:19:26,968
辛うじて 遠い近いはある｡
影もついてる｡

223
00:19:26,968 --> 00:19:33,675
けれど まるで コクがねえや｡

224
00:19:33,675 --> 00:19:38,046
あの～…
描き直させてやもらえやせんか｡

225
00:19:38,046 --> 00:19:41,383
このままじゃ
おやじ殿の名折れになりやす｡

226
00:19:41,383 --> 00:19:44,052
明日 納めるぞ｡

227
00:19:44,052 --> 00:19:48,723
ちょっと待っとくれよ｡
こんな代物 納められねえよ｡

228
00:19:48,723 --> 00:19:51,059
なら お前ら いつ 満足する!?

229
00:19:51,059 --> 00:19:56,731
あと３日か？ それとも 30日か？

230
00:19:56,731 --> 00:20:00,431
３年かければ きっと できると
言い切れんのかい！

231
00:20:03,071 --> 00:20:10,412
三流の玄人でも
一流の素人に勝る｡

232
00:20:10,412 --> 00:20:15,283
なぜだか分かるか？

233
00:20:15,283 --> 00:20:20,088
こうして 恥を忍ぶからだ！

234
00:20:20,088 --> 00:20:22,757
己が満足できねえもんでも➡

235
00:20:22,757 --> 00:20:27,629
歯ぁ食いしばって
世間の目にさらす！

236
00:20:27,629 --> 00:20:34,102
悔いてる暇あったら
とっとと次の仕事にかかれ｡

237
00:20:34,102 --> 00:20:37,005
お栄｡

238
00:20:37,005 --> 00:20:41,305
お前が持ってけ｡

239
00:20:49,117 --> 00:20:51,786
へえ｡

240
00:20:51,786 --> 00:21:03,131
♬～

241
00:21:03,131 --> 00:21:05,467
お待ちしておりました｡

242
00:21:05,467 --> 00:21:09,167
さあ こちらでございます｡
どうぞ｡

243
00:21:13,808 --> 00:21:19,481
いやあ よか絵ば
ありがとうございました｡

244
00:21:19,481 --> 00:21:22,817
どうぞ｡

245
00:21:22,817 --> 00:21:27,689
残りの金は 明日お届けすると
言うとらしたです｡

246
00:21:27,689 --> 00:21:31,493
へえ…｡

247
00:21:31,493 --> 00:21:35,363
あっ… 本当にいいんですか？
あの絵で｡

248
00:21:35,363 --> 00:21:40,101
ああ もちろんですたい｡
さすがは北斎先生だって➡

249
00:21:40,101 --> 00:21:43,772
ｼｰﾎﾞﾙﾄ先生も
死ぬほど喜んでおられました｡

250
00:21:43,772 --> 00:21:47,442
そうですか…｡

251
00:21:47,442 --> 00:21:50,779
あなた様は
ご覧になったんですか？

252
00:21:50,779 --> 00:21:56,451
ええ 拝見しましたばい｡
いかがでした？

253
00:21:56,451 --> 00:22:04,793
う～ん…
あっ 遊女の絵は気になったです｡

254
00:22:04,793 --> 00:22:08,463
気になった？

255
00:22:08,463 --> 00:22:12,133
あいは きっと
北斎先生の筆じゃなかと｡

256
00:22:12,133 --> 00:22:16,471
息ばしとらん
へったくそな絵です｡

257
00:22:16,471 --> 00:22:19,140
何か描こうとして➡

258
00:22:19,140 --> 00:22:24,012
思いに 手のついてっとらんと
でしょうな｡ うん｡

259
00:22:24,012 --> 00:22:28,149
へったくそだと…？

260
00:22:28,149 --> 00:22:31,820
思いに
手がついてっていないなんてな！

261
00:22:31,820 --> 00:22:35,423
そんな事は
己で一番分かってんだよ！

262
00:22:35,423 --> 00:22:38,723
こんちくしょう…｡

263
00:22:46,067 --> 00:22:49,971
お～い 何してんだ？ お栄｡

264
00:22:49,971 --> 00:22:53,971
己の腕に腹が立つのさ｡

265
00:22:56,711 --> 00:23:01,449
わ～っ！

266
00:23:01,449 --> 00:23:03,749
はあ…｡

267
00:23:06,121 --> 00:23:11,793
何で 私は 絵なんてもんに
魅入られちまったんだろうね｡

268
00:23:11,793 --> 00:23:14,493
苦しいばっかりだ｡

269
00:23:16,131 --> 00:23:32,413
♬～

270
00:23:32,413 --> 00:23:40,113
俺だって お前
満足なんざしてねえよ｡

271
00:23:44,425 --> 00:23:51,766
ああ もっとうまく
もっと もっとって➡

272
00:23:51,766 --> 00:23:56,437
いつも願うのに➡

273
00:23:56,437 --> 00:24:03,437
思う先から
描きてえもんが逃げていきやがる｡

274
00:24:05,446 --> 00:24:08,116
おやじ殿でもか？

275
00:24:08,116 --> 00:24:10,816
あったぼうよ｡

276
00:24:14,789 --> 00:24:19,089
お前なんかに満足されて
たまるかい｡

277
00:24:21,462 --> 00:24:24,365
よ～し｡

278
00:24:24,365 --> 00:24:28,336
この橋を渡ったら 忘れるぞ｡

279
00:24:28,336 --> 00:24:35,743
忘れて 俺たちは また
性根入れて あがいて あがいて➡

280
00:24:35,743 --> 00:24:40,043
ヘヘ あがきまくるんだ！
あっ！

281
00:24:46,087 --> 00:24:48,990
<あがいて あがいて➡

282
00:24:48,990 --> 00:24:53,428
あがいて あがいて…>

283
00:24:53,428 --> 00:25:10,778
♬～

284
00:25:10,778 --> 00:25:13,448
あっ｡

285
00:25:13,448 --> 00:25:17,318
ああ｡ 食わねえかい｡

286
00:25:17,318 --> 00:25:21,789
≪(小兎)なあ 善さん
来てくれないかね うちに｡

287
00:25:21,789 --> 00:25:26,461
ああ？
お栄の婿に
入ってもらうって事だよ｡➡

288
00:25:26,461 --> 00:25:30,331
そしたら お前さんだって
安心して隠居できるし…｡

289
00:25:30,331 --> 00:25:35,737
はっ 俺は隠居なんかしねえよ｡
婿養子なんか要るかい｡

290
00:25:35,737 --> 00:25:39,607
ちょいと おっ母さん｡
何 勝手に話してんだい｡

291
00:25:39,607 --> 00:25:42,076
だってさあ お前…｡➡

292
00:25:42,076 --> 00:25:47,415
あら？ 善さん｡
今の聞かれちまったかね？

293
00:25:47,415 --> 00:25:50,715
ﾊﾊﾊﾊ｡
いつもいつも余計な事を…｡

294
00:25:52,287 --> 00:25:55,757
おやじ殿？

295
00:25:55,757 --> 00:25:59,427
大丈夫か？
おおお… お前さん！

296
00:25:59,427 --> 00:26:02,330
おやじ殿？ おやじ殿!?

297
00:26:02,330 --> 00:26:05,099
(弥助)おやじ殿!? おやじ殿！

298
00:26:05,099 --> 00:26:08,002
弥助｡ 医者だ｡ 医者だよ 医者｡

299
00:26:08,002 --> 00:26:14,442
おやじ殿… しっかりしとくれよ！
後生だからさ！

300
00:26:14,442 --> 00:26:43,604
♬～

301
00:26:43,604 --> 00:26:48,743
あのしるしは 中気でござろう｡

302
00:26:48,743 --> 00:26:55,443
一たび寝ついてしまえば
いずれ ここも呆ける｡

303
00:27:03,091 --> 00:27:06,427
<おやじ殿が倒れたという噂は➡

304
00:27:06,427 --> 00:27:12,767
すぐに 江戸だけではなく
諸国の版元や絵師に知れ渡った>

305
00:27:12,767 --> 00:27:15,436
どうも ありがとうございました｡

306
00:27:15,436 --> 00:27:18,436
五助｡
へえ｡

307
00:27:20,108 --> 00:27:23,778
ああ… は～い｡

308
00:27:23,778 --> 00:27:28,078
は～い 気持ちいいね｡

309
00:27:33,588 --> 00:27:38,292
お栄さん｡ ここは あっしらが
なんとか しのぎやすから➡

310
00:27:38,292 --> 00:27:41,729
おやじ殿の介抱に専念して下さい｡

311
00:27:41,729 --> 00:27:46,029
うん… ありがとう｡

312
00:27:47,602 --> 00:27:49,604
おい ちょうさん｡
へえ｡

313
00:27:49,604 --> 00:27:54,308
こっち 頼まあ｡
はいよ｡ 何でもやりますぜ｡

314
00:27:54,308 --> 00:28:00,415
(小兎)ああ～ うまくのめたねえ｡

315
00:28:00,415 --> 00:28:04,752
お栄が作ってくれたのさ｡ ねえ｡

316
00:28:04,752 --> 00:28:07,088
ああ ちょうどよかった｡

317
00:28:07,088 --> 00:28:10,425
下帯をきれいに洗っといとくれ｡
もう替えがないんだ｡

318
00:28:10,425 --> 00:28:14,425
なあ おっ母さん…｡
(小兎)ん？ 何だい？

319
00:28:16,097 --> 00:28:18,766
もう10日だ｡

320
00:28:18,766 --> 00:28:24,766
おやじ殿 そろそろ
筆を持つ修練 始めてみても…｡

321
00:28:27,775 --> 00:28:30,445
何だって？

322
00:28:30,445 --> 00:28:34,715
養生してる最中の親に向かって
よくも そんな…｡

323
00:28:34,715 --> 00:28:38,052
でも… これじゃ まるで赤ん坊だ｡

324
00:28:38,052 --> 00:28:40,721
なあ おっ母さん｡

325
00:28:40,721 --> 00:28:45,593
おやじ殿は… おやじ殿にとって
絵を描くって事は…｡

326
00:28:45,593 --> 00:28:47,595
ご覧よ！

327
00:28:47,595 --> 00:28:50,595
これ以上 どこに
かじる すねがあるってんだい！

328
00:28:52,333 --> 00:28:56,033
ひどいよ お前は ひどいよ…｡

329
00:29:18,092 --> 00:30:02,603
♬～

330
00:30:02,603 --> 00:30:07,074
<絵師としての おやじ殿を
失いたくない｡➡

331
00:30:07,074 --> 00:30:12,947
これは 私の欲なんだろうか>

332
00:30:12,947 --> 00:30:27,395
♬～

333
00:30:27,395 --> 00:30:30,097
≪御免！

334
00:30:30,097 --> 00:30:32,797
何だい…｡

335
00:30:36,437 --> 00:30:39,106
ああ 滝沢と申す｡

336
00:30:39,106 --> 00:30:43,778
付近をたまたま…
たまたま 通りすがった故に➡

337
00:30:43,778 --> 00:30:46,113
北斎翁にお取り次ぎを願いたい｡

338
00:30:46,113 --> 00:30:48,049
滝沢様？

339
00:30:48,049 --> 00:30:52,453
鳥を逃がしてしもうたそうな｡

340
00:30:52,453 --> 00:30:56,324
あれほどのｶﾅﾘｱは
おらんというのに もう➡

341
00:30:56,324 --> 00:31:00,795
粗忽 軽率 愚の骨頂
極まりないわ｡

342
00:31:00,795 --> 00:31:04,795
滝沢馬琴先生…｡

343
00:31:19,814 --> 00:31:23,150
無様よのう！

344
00:31:23,150 --> 00:31:32,450
葛飾北斎が…
こんな掃きだめで恍惚としおって｡

345
00:31:37,098 --> 00:31:42,770
絵師風情が このまま
枯れ木のごとく枯れ果てようと➡

346
00:31:42,770 --> 00:31:45,673
わしには 何の痛痒もござらん｡

347
00:31:45,673 --> 00:31:51,779
人並みの往生を望もうとも
わしの知ったこっちゃない｡

348
00:31:51,779 --> 00:31:55,479
だが…｡

349
00:32:00,121 --> 00:32:09,421
わしは かような往生は望まぬな！

350
00:32:11,132 --> 00:32:17,805
たとえ右腕が動かずとも
この目が見えぬ仕儀に至りても➡

351
00:32:17,805 --> 00:32:22,143
わしは 必ずや戯作を続ける｡

352
00:32:22,143 --> 00:32:24,078
まだ何も書いておらぬ｡

353
00:32:24,078 --> 00:32:29,483
己の思うように書けた事などは
ただの一度もござらぬ｡

354
00:32:29,483 --> 00:32:36,483
その方も…
さようではなかったのか？

355
00:32:43,431 --> 00:32:50,304
葛飾北斎！
いつまで養生しておるつもりぞ！

356
00:32:50,304 --> 00:32:54,442
ここで もう満ち足りたのか！

357
00:32:54,442 --> 00:33:01,742
描きたき事 挑みたき事は まだ
山とあるのではなかったのか！

358
00:33:06,053 --> 00:33:08,753
あの野郎…｡

359
00:33:16,130 --> 00:33:19,467
そなたが お栄さんか｡

360
00:33:19,467 --> 00:33:22,803
拙宅で取れた柚子だ｡

361
00:33:22,803 --> 00:33:27,475
これを細かく刻んで酒を加え
焦がさぬように煮詰めろ｡

362
00:33:27,475 --> 00:33:30,144
水あめのごとき様子にならば
火から下ろし➡

363
00:33:30,144 --> 00:33:33,047
白湯で割って 口に含ませてやれ｡

364
00:33:33,047 --> 00:33:35,750
柚子と酒？
さよう｡

365
00:33:35,750 --> 00:33:40,421
酒の毒は 煮詰めれば とぶ｡

366
00:33:40,421 --> 00:33:46,121
柚子を刻むは 竹べら｡
煮るは 土鍋に限る｡

367
00:33:49,764 --> 00:33:52,666
≪おおお…｡

368
00:33:52,666 --> 00:33:55,666
おやじ殿…｡

369
00:33:57,638 --> 00:34:01,108
ああ…｡
ああ… どうした どうした！

370
00:34:01,108 --> 00:34:04,979
どっか痛むのかい？
おお… お栄 お栄｡

371
00:34:04,979 --> 00:34:07,782
無茶しないどくれよ！
骨でも折れたら…｡

372
00:34:07,782 --> 00:34:10,782
お栄…｡
ああ… うわっ！

373
00:34:13,654 --> 00:34:15,954
お栄…｡

374
00:34:18,125 --> 00:34:27,425
養生は… もう… 飽いた｡

375
00:34:33,607 --> 00:34:36,410
はっ…｡

376
00:34:36,410 --> 00:34:39,747
よし｡

377
00:34:39,747 --> 00:35:11,679
♬～

378
00:35:11,679 --> 00:35:16,116
<私は 柚子を刻み続けた｡➡

379
00:35:16,116 --> 00:35:19,453
これさえ飲んだら
必ず 元に戻れる｡➡

380
00:35:19,453 --> 00:35:24,453
おやじ殿は
そう信じているようだった>

381
00:35:50,084 --> 00:35:53,084
お栄 帰ったよ｡

382
00:36:01,095 --> 00:36:06,433
また 作ってるのかえ｡
ああ｡ もう無くなると思うと➡

383
00:36:06,433 --> 00:36:09,103
見計らったみたいに
届けてくれんだよ｡

384
00:36:09,103 --> 00:36:11,803
ありがたいよ｡

385
00:36:24,118 --> 00:36:27,021
お栄｡
あっ？

386
00:36:27,021 --> 00:36:29,721
(小兎)お父っつぁんを頼んだよ｡

387
00:36:52,279 --> 00:36:56,050
<季節が変わった頃➡

388
00:36:56,050 --> 00:36:59,954
おやじ殿は
絵こそ まだ描けないものの➡

389
00:36:59,954 --> 00:37:04,954
筆を持っても
落とさないところまでは回復した>

390
00:37:13,767 --> 00:37:18,767
<亡くなったのは
おっ母さんだった>

391
00:37:31,118 --> 00:37:33,387
どうも お待たせしました｡

392
00:37:33,387 --> 00:37:36,087
ありがとうございました｡

393
00:37:46,400 --> 00:37:49,069
よう｡

394
00:37:49,069 --> 00:37:52,940
どうした？ こんな所で｡
乙粋じゃねえか｡

395
00:37:52,940 --> 00:37:57,411
西村屋に品を納めた帰りだよ｡

396
00:37:57,411 --> 00:38:01,081
おやじ殿の安茶と大福餅さ｡

397
00:38:01,081 --> 00:38:04,952
もう描いてるらしいじゃねえか｡

398
00:38:04,952 --> 00:38:08,422
ああ お医者も目ぇ丸くしてる｡

399
00:38:08,422 --> 00:38:14,722
もう二度と描く事を
手放すまいって思ってんだろうな｡

400
00:38:17,765 --> 00:38:20,668
お前は？

401
00:38:20,668 --> 00:38:23,368
お前も描いてんだろ？

402
00:38:25,105 --> 00:38:28,105
私か…｡

403
00:38:29,777 --> 00:38:33,777
私 何なんだろうな…｡

404
00:38:36,583 --> 00:38:41,722
おやじ殿の事ばっかり考えて…➡

405
00:38:41,722 --> 00:38:46,422
私 ちっともおっ母さんの事なんか
思いもつかなかった｡

406
00:38:50,064 --> 00:38:53,734
そうさ…｡

407
00:38:53,734 --> 00:39:02,076
私は おやじ殿を… おやじ殿の
絵を失うのが怖かったんだよ｡

408
00:39:02,076 --> 00:39:09,076
親よりも絵が大事なんて
私ってやつは…｡

409
00:39:11,085 --> 00:39:13,987
大丈夫だよ｡

410
00:39:13,987 --> 00:39:16,987
おっ母さん
きっと 全部分かってる｡

411
00:39:19,760 --> 00:39:25,460
分かってるさ｡ 大丈夫｡

412
00:39:32,106 --> 00:39:36,376
善さんにも
いろいろ世話になったな｡

413
00:39:36,376 --> 00:39:40,047
おっ母さんの野辺送りには
妹さんたちや…➡

414
00:39:40,047 --> 00:39:44,918
あの お滝さんだっけ｡
あの人も来てくれて｡

415
00:39:44,918 --> 00:39:49,056
本当 ありがたかったよ｡

416
00:39:49,056 --> 00:39:54,056
そうか お滝も行ったのか｡

417
00:39:55,729 --> 00:39:58,065
あいつ
毎日 顔突き合わせてんのに➡

418
00:39:58,065 --> 00:40:01,365
そんな事
ひと言も言いやがらねえから｡

419
00:40:03,403 --> 00:40:07,074
毎日？

420
00:40:07,074 --> 00:40:12,374
ああ 今 一緒に住んでる｡

421
00:40:21,088 --> 00:40:24,958
おっ そうだった｡

422
00:40:24,958 --> 00:40:29,258
これ これ｡ これ どうだ？

423
00:40:38,438 --> 00:40:42,776
何？ この青｡
ﾍﾍｯ｡ ベロよ｡

424
00:40:42,776 --> 00:40:46,446
浮世絵で このベロ使ったの
俺が初めてなんだぜ｡

425
00:40:46,446 --> 00:40:50,117
おやじ殿に見てもらいてえと
思ってよ｡

426
00:40:50,117 --> 00:40:53,453
うん… 深い青だ｡

427
00:40:53,453 --> 00:40:56,123
普通の藍じゃないね これ｡

428
00:40:56,123 --> 00:40:59,823
おうよ｡ さすが お栄だ｡

429
00:41:01,461 --> 00:41:06,333
あ～ お前に
先に見せるんじゃなかったな｡

430
00:41:06,333 --> 00:41:08,335
親子ともども➡

431
00:41:08,335 --> 00:41:12,472
あっと のけぞらせてやるつもり
だったのによ｡

432
00:41:12,472 --> 00:41:14,472
ああ？

433
00:41:16,343 --> 00:41:19,343
どうした？

434
00:41:22,482 --> 00:41:25,819
具合でも悪いのか？

435
00:41:25,819 --> 00:42:21,808
♬～

436
00:42:21,808 --> 00:42:25,679
<善さんの優しさは 毒だ｡➡

437
00:42:25,679 --> 00:42:30,979
私は とうとう 毒を食らう>

438
00:42:32,753 --> 00:42:35,422
<目眩がした>

439
00:42:35,422 --> 00:42:52,973
♬～

440
00:42:52,973 --> 00:42:56,443
<一度限りと思ってたのに…➡

441
00:42:56,443 --> 00:43:01,315
こんな事になっちまって
お滝さんに気が差さないのかい？>

442
00:43:01,315 --> 00:43:05,786
差すよ｡
あっし あの人 嫌いじゃない｡

443
00:43:05,786 --> 00:43:08,455
<本当かね？➡

444
00:43:08,455 --> 00:43:10,791
いっそ奪っちまいたいって
思ってるんだろう>

445
00:43:10,791 --> 00:43:12,726
うるさい うるさい｡

446
00:43:12,726 --> 00:43:15,662
私は きっと
相手は 誰だってよかったんだよ｡

447
00:43:15,662 --> 00:43:19,800
たまさか 気の合う男が
そばにいただけの事｡

448
00:43:19,800 --> 00:43:22,469
これから先 どうなるかなんて
思案に暮れるのは➡

449
00:43:22,469 --> 00:43:25,169
真っ平ごめんだよ｡

450
00:43:29,343 --> 00:43:32,145
はあ いいじゃないか｡

451
00:43:32,145 --> 00:43:36,750
朝になれば
家に帰っていくんだから｡

452
00:43:36,750 --> 00:43:40,420
(小声で)
あれ 誰としゃべってんですかい？

453
00:43:40,420 --> 00:43:43,323
知るかい｡

454
00:43:43,323 --> 00:43:48,023
じゃあ あっしは これで｡

455
00:43:50,097 --> 00:43:53,967
ほら 行こう｡
気ぃ付けて｡

456
00:43:53,967 --> 00:43:56,436
こいつは また｡
おう｡

457
00:43:56,436 --> 00:43:59,736
<弥助さんは
独り立ちする事になった>

458
00:44:03,777 --> 00:44:08,777
<おやじ殿は 70にして腰が伸びた>

459
00:44:31,471 --> 00:44:35,075
おやじ殿！ 火事ですぜ！
佐久間町の辺りだって！➡

460
00:44:35,075 --> 00:44:37,411
もう 京橋辺りまで
火が来てるって｡

461
00:44:37,411 --> 00:44:41,281
そりゃあ 芝まで火にのまれるぞ｡

462
00:44:41,281 --> 00:44:44,084
じゃ 善さんの住む惣十郎町も…｡

463
00:44:44,084 --> 00:45:04,404
♬～

464
00:45:04,404 --> 00:45:09,109
<昼夜を問わず
江戸は よく燃える>

465
00:45:09,109 --> 00:45:13,447
善さん…｡

466
00:45:13,447 --> 00:45:15,382
<天を焦がし➡

467
00:45:15,382 --> 00:45:19,786
朝焼けでも夕焼けでもない色を
見せる｡➡

468
00:45:19,786 --> 00:45:24,458
善さんの家は 焼け落ち
それから３年➡

469
00:45:24,458 --> 00:45:30,458
生きていると噂は聞くものの
姿を見せる事はなかった>

470
00:45:54,087 --> 00:45:56,756
(与八)あの己丑の大火で➡

471
00:45:56,756 --> 00:46:03,430
手前ども西村屋は
大事な版木の全てを失いました｡

472
00:46:03,430 --> 00:46:05,765
うちだけじゃない｡

473
00:46:05,765 --> 00:46:11,104
江戸の版元のほとんどが
同様のありさまです｡

474
00:46:11,104 --> 00:46:20,447
でも うちは だからこそ
やってやりたいんです｡

475
00:46:20,447 --> 00:46:24,147
こいつは 大博打になるな｡

476
00:46:25,785 --> 00:46:30,785
ねえ おやじ殿は 何を描く？

477
00:46:33,393 --> 00:46:36,393
そりゃあもう決まってる｡

478
00:46:43,737 --> 00:46:46,437
お待たせ致しやした｡

479
00:46:52,078 --> 00:46:54,414
これは…｡

480
00:46:54,414 --> 00:46:58,084
<おやじ殿は
どんどん富士を描き➡

481
00:46:58,084 --> 00:47:01,421
西村屋は
｢富嶽三十六景｣と名付け➡

482
00:47:01,421 --> 00:47:03,757
鳴り物入りで売り出した｡➡

483
00:47:03,757 --> 00:47:07,057
ほかの仕事は
一切 私が引き受けた>

484
00:47:11,431 --> 00:47:14,768
<｢富嶽三十六景｣は
売れに売れまくって➡

485
00:47:14,768 --> 00:47:17,437
新しい名所絵の流行りを
作り出し➡

486
00:47:17,437 --> 00:47:21,107
日本諸国
北は松前 南は薩州まで➡

487
00:47:21,107 --> 00:47:25,445
あらゆる所で おやじ殿の富士が
拝まれるようになった｡➡

488
00:47:25,445 --> 00:47:30,116
北斎の名を知らぬ者は
いなくなった>

489
00:47:30,116 --> 00:47:33,987
途中で落とすんじゃねえぞ｡
はい｡ ねえさん 頂いていきます！

490
00:47:33,987 --> 00:47:36,389
ご苦労さん｡

491
00:47:36,389 --> 00:47:38,725
じゃあ ねえさん
あっしらは これで｡
ああ｡

492
00:47:38,725 --> 00:47:41,725
これ｡
へえ｡

493
00:47:46,066 --> 00:47:49,066
ありがとよ｡

494
00:47:53,940 --> 00:47:57,940
あっしも これで｡
失礼しやす｡
ご苦労さん｡

495
00:48:13,293 --> 00:48:16,293
よう｡

496
00:48:19,766 --> 00:48:22,466
変わりはねえか？

497
00:48:25,105 --> 00:48:27,805
変わりねえみてえだな｡

498
00:48:29,776 --> 00:48:35,382
何だよ その面｡
びっくりし過ぎだろう｡

499
00:48:35,382 --> 00:48:41,721
変わりねえ訳ねえだろ｡
何年たってると思ってんだい｡

500
00:48:41,721 --> 00:48:47,394
ご挨拶だな｡
桜餅買ってきたのによ｡

501
00:48:47,394 --> 00:48:50,063
おやじ殿は？

502
00:48:50,063 --> 00:48:54,734
絵 描きに出かけちまったよ｡
そっちは？

503
00:48:54,734 --> 00:48:56,670
ん？

504
00:48:56,670 --> 00:49:03,743
根津で女楼屋してるなんてえ
聞いたけど うそだろ？

505
00:49:03,743 --> 00:49:06,646
ああ 本当さ｡

506
00:49:06,646 --> 00:49:10,417
所帯持って女楼屋始めた｡

507
00:49:10,417 --> 00:49:13,753
そうか｡

508
00:49:13,753 --> 00:49:19,092
ﾊﾊｯ！ しっかし…➡

509
00:49:19,092 --> 00:49:22,429
ますます売れっ子だってえのに
本当に変わりねえな｡

510
00:49:22,429 --> 00:49:25,098
もうちっと いい暮らし
できそうなもんだ｡

511
00:49:25,098 --> 00:49:28,435
食って寝られりゃ上等だよ｡

512
00:49:28,435 --> 00:49:34,135
おかげさまで 酒も煙草も
好きな時に好きなだけ味わえる｡

513
00:49:38,244 --> 00:49:42,544
私は 描いてさえいれば幸せさ｡

514
00:49:45,919 --> 00:49:51,057
この間の｢菊に虻｣
あれ お前の筆だろ｡

515
00:49:51,057 --> 00:49:55,929
虻は おやじ殿｡ でも 菊はお前だ｡

516
00:49:55,929 --> 00:49:59,399
それから ｢牡丹に蝶｣｡

517
00:49:59,399 --> 00:50:03,737
あっちは 花が おやじ殿で
蝶がお前｡

518
00:50:03,737 --> 00:50:06,072
当たりか？

519
00:50:06,072 --> 00:50:11,945
分かっちまうのかい｡
そりゃ よくねえな｡

520
00:50:11,945 --> 00:50:16,245
お前の絵には 色気がねえからな｡
ほっとけ｡

521
00:50:19,619 --> 00:50:23,423
お前も もう てめえの名前で
注文が来てるらしいじゃねえか｡

522
00:50:23,423 --> 00:50:26,423
これからは もっと
己の名前で描きゃあいい｡

523
00:50:29,763 --> 00:50:35,763
おやじ殿は 私にとっちゃ光だよ｡

524
00:50:37,437 --> 00:50:41,307
眩すぎて 到底届かない｡

525
00:50:41,307 --> 00:50:48,007
それに おやじ殿の名で描いた方が
よっぽど高く売れるってのにさ｡

526
00:50:51,785 --> 00:50:54,454
これ 桜か？

527
00:50:54,454 --> 00:51:00,154
ああ｡
向島の料理屋から受けた注文でね｡

528
00:51:02,328 --> 00:51:09,469
灯籠と こっちも灯籠って事は
これ 夜桜か？

529
00:51:09,469 --> 00:51:14,140
座敷に飾って
お客の目に触れるのは夜の宴だろ｡

530
00:51:14,140 --> 00:51:18,011
ぼんぼりをともした
薄闇の床の間には➡

531
00:51:18,011 --> 00:51:21,815
こういうのもいいかと思ってさ｡

532
00:51:21,815 --> 00:51:25,485
夜に夜の景色 見せんのか｡

533
00:51:25,485 --> 00:51:32,185
夜の闇の中にも
いくらだって 光と影があるだろ｡

534
00:51:33,760 --> 00:51:38,760
闇のおかげで
光も いろんな色を見せる｡

535
00:51:40,633 --> 00:51:47,106
この子は今 灯籠の明かりを頼りに
歌を詠もうとしてるんだ｡

536
00:51:47,106 --> 00:51:53,406
夜には きっと
昼には書けない歌が詠める｡

537
00:51:59,686 --> 00:52:02,986
本当 お前ってやつは…｡

538
00:52:04,657 --> 00:52:08,127
お前は 本当
己の腕を分かっちゃいねえんだよ｡

539
00:52:08,127 --> 00:52:10,827
あきれるほど｡

540
00:52:13,800 --> 00:52:18,500
どういう意味だ？
意味が分からねえ｡

541
00:52:20,139 --> 00:52:23,810
俺にとっちゃ お前も光って事よ｡

542
00:52:23,810 --> 00:52:29,110
くらくらする 眩しい光だ｡

543
00:52:31,684 --> 00:52:34,420
ﾊﾊｯ…｡

544
00:52:34,420 --> 00:52:39,292
俺は もう 絵は描かねえ｡

545
00:52:39,292 --> 00:52:42,762
お前は描き続けろ｡

546
00:52:42,762 --> 00:53:47,062
♬～

547
00:53:59,105 --> 00:54:03,405
(笑い声)

548
00:54:09,115 --> 00:54:12,785
家移りは
これっきりにしてもらうからね｡

549
00:54:12,785 --> 00:54:16,456
もう ごめんだよ…｡

550
00:54:16,456 --> 00:54:19,156
奥だぞ｡

551
00:54:22,128 --> 00:54:25,428
じゃあ あっしは これで｡
ああ｡

552
00:54:28,001 --> 00:54:31,137
<おやじ殿は 80を過ぎた頃から➡

553
00:54:31,137 --> 00:54:35,837
徐々に一点物の絵に
力を注ぐようになった>

554
00:54:47,620 --> 00:54:50,423
帰ったよ｡

555
00:54:50,423 --> 00:54:57,423
おや 珍しい｡ 起きてたのかえ｡
お栄…｡

556
00:55:17,650 --> 00:55:20,787
西村屋さんに ｽｲｶもらったけど➡

557
00:55:20,787 --> 00:55:24,123
長屋の女将さんに
あげちゃっていいよね｡

558
00:55:24,123 --> 00:55:26,793
私 こんなの切るの面倒くさくて｡

559
00:55:26,793 --> 00:55:30,463
お栄｡
えっ？

560
00:55:30,463 --> 00:55:33,763
善次郎が死んだ｡

561
00:55:38,738 --> 00:55:44,610
寝ぼけてんのかえ？
縁起でもない夢…｡

562
00:55:44,610 --> 00:55:48,910
さっき 女房から使えが来た｡

563
00:55:51,084 --> 00:55:55,084
今夜 野辺送りだそうだ｡

564
00:56:02,428 --> 00:56:05,128
あっ そう｡

565
00:56:06,766 --> 00:56:10,436
嘉永元年 夏➡

566
00:56:10,436 --> 00:56:15,736
溪斎英泉こと 池田善次郎
死んじまうってね…｡

567
00:56:18,111 --> 00:56:25,111
あんな ずうずうしいのが
風邪なんぞで逝っちまうとは…｡

568
00:56:34,060 --> 00:56:44,060
ちゃんと見送らねえと
いつまでも尾を引くぞ｡

569
00:56:47,406 --> 00:56:51,406
今からなら
まだ間に合うかもしれねえ｡

570
00:57:41,394 --> 00:58:30,443
♬～

571
00:58:30,443 --> 00:58:34,743
あばえ… 善さん｡

572
00:58:40,253 --> 00:58:43,022
<真ん中は 若い遊女だ｡➡

573
00:58:43,022 --> 00:58:46,392
きっと まだ
閨の事は好きじゃない｡➡

574
00:58:46,392 --> 00:58:49,061
いつか 自分も
花魁のようになれるかどうか➡

575
00:58:49,061 --> 00:58:50,997
不安でたまらない｡➡

576
00:58:50,997 --> 00:58:56,736
でも わちきも琴は好きだ｡
お客が喜んでくれる｡➡

577
00:58:56,736 --> 00:59:02,408
右手には 婀娜な女芸者｡
年は 25か26か｡➡

578
00:59:02,408 --> 00:59:05,745
心底ほれた男が
これまでに１人いる｡➡

579
00:59:05,745 --> 00:59:08,080
けれど
その恋は かなわなかった｡➡

580
00:59:08,080 --> 00:59:12,418
今は 親子ほど年の離れた
旦那がいる｡➡

581
00:59:12,418 --> 00:59:17,290
もの足りなくもあるけれど
私には 三味線の腕がある｡➡

582
00:59:17,290 --> 00:59:21,093
左で胡弓を弾く娘は 町娘だ｡➡

583
00:59:21,093 --> 00:59:23,029
商家の一人娘で➡

584
00:59:23,029 --> 00:59:27,967
いずれ 遠縁から婿を迎える事が
幼い頃から決まっている｡➡

585
00:59:27,967 --> 00:59:31,437
許嫁は 洒落者を気取って
｢芝居を見よう｡➡

586
00:59:31,437 --> 00:59:35,041
菊細工見物は どうだ｣と
誘ってきて煩わしい｡➡

587
00:59:35,041 --> 00:59:38,377
本当は
若い手代の一人が気になる｡➡

588
00:59:38,377 --> 00:59:43,677
ふとした拍子に目が合えば
胸がどきついて…>

589
01:00:09,075 --> 01:01:30,823
♬～

590
01:01:30,823 --> 01:01:33,823
酔女？

591
01:01:36,429 --> 01:01:41,100
世を捨てたような画号だな｡

592
01:01:41,100 --> 01:01:44,770
お栄の栄と 酔うっていう字は➡

593
01:01:44,770 --> 01:01:47,440
おんなじ音だからな｡

594
01:01:47,440 --> 01:02:00,986
♬～

595
01:02:00,986 --> 01:02:04,286
私らしいだろ？

596
01:02:16,135 --> 01:02:18,804
ああ こいつは軽い｡

597
01:02:18,804 --> 01:02:25,478
藍群青に子持ち縞たあ 乙粋だ｡

598
01:02:25,478 --> 01:02:30,349
卒寿の祝いだから 紫群青が
いいって言ったんですけどね➡

599
01:02:30,349 --> 01:02:35,087
うちのかかあが こっちの方が
顔写りがいいからっつって➡

600
01:02:35,087 --> 01:02:37,387
聞かねえんでさ｡

601
01:02:44,430 --> 01:02:49,301
この墨絵 お栄さんですかい？
ああ｡

602
01:02:49,301 --> 01:02:54,773
おやじ殿が 正月に富士の絵を
やりたいって言いだしてね｡

603
01:02:54,773 --> 01:03:00,646
う～ん… このままじゃ
絵組みがさみしい気もするけど…｡

604
01:03:00,646 --> 01:03:03,946
う～ん…｡

605
01:03:05,784 --> 01:03:09,655
お栄｡
ん？

606
01:03:09,655 --> 01:03:14,460
富士を仕上げるぞ｡

607
01:03:14,460 --> 01:03:42,621
♬～

608
01:03:42,621 --> 01:03:45,758
刷毛 筆｡

609
01:03:45,758 --> 01:04:43,949
♬～

610
01:04:43,949 --> 01:04:46,418
水｡

611
01:04:46,418 --> 01:05:40,718
♬～

612
01:05:42,408 --> 01:05:46,708
(弥助)はあ～…｡

613
01:06:00,426 --> 01:06:04,426
はあ～… すげえ｡

614
01:06:09,435 --> 01:06:13,105
すげえ｡

615
01:06:13,105 --> 01:06:20,805
ああ… うまくなりてえ…｡

616
01:06:29,455 --> 01:06:42,401
天が あと10年… いや ５年
命をくれるなら➡

617
01:06:42,401 --> 01:06:49,401
俺は
本当の絵描きになってみせる｡

618
01:06:51,744 --> 01:06:58,617
きっと なってみせる｡

619
01:06:58,617 --> 01:07:20,105
♬～

620
01:07:20,105 --> 01:07:23,405
<その数か月後>

621
01:07:25,778 --> 01:07:31,078
<私は おやじ殿を失った>

622
01:07:35,387 --> 01:07:38,087
(猫の鳴き声)

623
01:07:46,031 --> 01:07:48,934
(鳴き声)

624
01:07:48,934 --> 01:08:11,234
♬～

625
01:08:26,104 --> 01:08:39,651
(泣き声)

626
01:08:39,651 --> 01:08:44,056
私も うまくなりてえなあ…｡

627
01:08:44,056 --> 01:08:56,635
(泣き声)

628
01:08:56,635 --> 01:08:59,605
なりてえなあ…｡

629
01:08:59,605 --> 01:09:28,433
♬～

630
01:09:28,433 --> 01:09:33,733
<そして 私も年を取った>

631
01:09:36,708 --> 01:09:41,380
<黒船が来て 地揺れが起きて…➡

632
01:09:41,380 --> 01:09:46,080
弟の家に やっかいになった>

633
01:09:52,991 --> 01:09:57,729
(弥生)義姉上
また黙ってお出かけになって｡

634
01:09:57,729 --> 01:10:01,400
新吉原へ行ってたんだよ｡
(崎十郎)そうですか｡

635
01:10:01,400 --> 01:10:04,069
大変な
にぎわいだったでしょうね｡

636
01:10:04,069 --> 01:10:09,741
供も連れずに｡ 私たちが
いかほど案じていた事か｡

637
01:10:09,741 --> 01:10:14,079
それは 心配をかけて
申し訳のない事だったね｡

638
01:10:14,079 --> 01:10:17,950
また そうやって
口先だけで わびられる｡

639
01:10:17,950 --> 01:10:20,752
武家にとって
あらぬ噂を立てられる事が➡

640
01:10:20,752 --> 01:10:22,688
いかほど不面目か｡

641
01:10:22,688 --> 01:10:25,624
笑われるのは
あなた様の弟君と私です｡

642
01:10:25,624 --> 01:10:28,427
そう お盆の頃だって…｡
もう分かったから➡

643
01:10:28,427 --> 01:10:32,097
くどくど言うんじゃないよ｡

644
01:10:32,097 --> 01:10:47,446
♬～

645
01:10:47,446 --> 01:10:51,116
(弥生)ほんに 義姉上ほど
気随気ままな方はいません｡

646
01:10:51,116 --> 01:10:54,453
まあまあ｡
石や草 木の実まで
家の中に持ち込んで…｡

647
01:10:54,453 --> 01:11:01,126
それが 父上や姉上の生業だ｡
目くじらを立てるな｡

648
01:11:01,126 --> 01:11:04,126
はあ…｡

649
01:11:06,798 --> 01:11:09,468
ほ～れ｡

650
01:11:09,468 --> 01:11:14,468
こうして ここに
深～い黒を落とすだろう｡

651
01:11:17,809 --> 01:11:28,109
そうすると こっちの明かりが
余計強く宿って…｡

652
01:11:35,093 --> 01:11:38,093
そう…｡

653
01:11:39,765 --> 01:11:45,103
これが光さ｡

654
01:11:45,103 --> 01:11:50,103
<この世は 光と影で出来ている>

655
01:11:51,777 --> 01:11:59,477
<影が万事を形づけ
光が それを浮かび上がらせる>

656
01:12:01,453 --> 01:12:12,097
♬｢とんび からすに
ならるるならば｣

657
01:12:12,097 --> 01:12:14,397
(笑い声)

658
01:12:16,001 --> 01:12:30,301
♬｢飛んで行きたや 主の側｣

659
01:12:32,751 --> 01:12:37,422
♬｢はっ ちりちりちん｣

660
01:12:37,422 --> 01:12:40,759
♬｢つるつるつん｣

661
01:12:40,759 --> 01:13:29,459
♬～

